これも運命なのでしょうか








物騒だからと玄関の鍵を閉めてから少しした後だった。ガチャ、とドアノブを回す音がした後鍵が閉まっていることに気がついたようで、ピンポンピンポン、と二回短くインターホンが鳴る。馬岱独特のインターホンの鳴らし方だ。俺は誰がインターホンを鳴らしたかわかっているため、何も確認をすること無く玄関を開けた。
玄関の先に立っていたのは品物が入っているスーパーのビニール袋をぶら下げた馬岱と、見たことも無い少年…それとも青年?だった。健康だとは言い難い顔色、そのうえ裸足で、落ちていたガラスの破片か何かで切ったのか血が滲んでいて痛々しい。通常では有りえない様子に少しだけぎょっとした。

少し間があいた後、俺はその不信な人物に不躾な質問をした。あんた誰、と。すると一瞬身体を反応させて、今まで落ち着き無く泳がせていた視線を俺に向ける。茶色い髪の毛よりも少し明るめの色をした宝石のような瞳が俺を睨んだように見えた。
結局しばらく時間が経っても答えが返ってくることは無く、馬岱もそれについては何も言わなかった。その代わりに風呂は沸いているかと質問をする。さっきまで暇だった俺は風呂に入ろうと湯を沸かして居たので、沸いていると返事を返した。
「じゃあ先に入れてあげてもいいよね。すごい冷えてるみたいだから」
馬岱はそう言いながら、隣の人物をバスルームまで案内する。いいです、と遠慮して中々入っていなかったものの、馬岱が半ば無理矢理に引きずり込んだ。取り残された俺は、とりあえずリビングへ戻った。

少しして、バスルームからパタンとドアを閉める音が聞こえた。後ろを振り返るとそこには馬岱がいて、はい、と俺にアップルジュースの入ったパックを手渡した。俺がこれを買いに行くよう頼んだので、さんきゅうとふざけた礼を言って受け取る。馬岱は馬岱で他のものを買ってきたようで、ビニール袋の中身を漁っている。
「なー、あいつ誰なの?」
聞きながら受け取ったパックの口を開け、何の面白みもない普通のガラスコップへ注ぐ。
「名前は姜維。19歳だって。泊まるところが無いから泊めて下さいって言われた」
口に含んだジュースをぶっと噴出しそうになった。思ったより歳が近い(もっと15、6歳だと思ってた)ということにも驚いたが、なにより泊まるところが無いから泊めて下さいと言われてそれを許可してしまう馬岱にかなり驚き、むっとした。この借りている部屋はあくまで俺と馬岱のものであるのだから、俺に相談無しで勝手に返事をしてしまうのはどうかと思う。
「おまえ…、今は色々と物騒なんだからそんな簡単に、」
「いいじゃん。あの子は公園で一人だったんだよ?放って置いたらあの子が変な事件に巻き込まれる」
俺の説教を聞くのが嫌らしく、言葉を遮りもっともらしい言い訳をする。難が有る性格だと俺がしょっちゅう言われるのだから、馬岱はもっとひどい性格だと言われてもおかしくない。というより、既に言われていたりする。
はあ、と俺はため息を吐いて、コップの底に残ったジュースを飲み干した。

「泊まるところが無いって、家出か?」
あれから会話が無くなったので、しばらくして俺が話を切り出した。馬岱は買ってきた玩具付きのお菓子を開けては、ダブったとかやったーとかのんきに言って一喜一憂していた。
「ん?あー。なんだろうね、俺もよく知らないし」
そう言ってまたお菓子の箱を開けては何か言っている。いったいいくつ買ってきたんだろう。大人買いにも程がある。ふうと心の中でため息を吐いて、何気なく時計に視線を移した。もう深夜一時を過ぎている。ふ、とあることに気がついて馬岱に声を掛ける。
「なあ遅くない?姜維…って奴、風呂からまだ出て来てない」
「ああ、本当だ。もう一時間は経ったね」
嫌な沈黙が始まる。付けっ放しのテレビから、子供が親を殺したというニュースを読んでいるニュースキャスターの声が聞こえる。俺はリモコンを手に取りそれでパチンと電源を消した。しいん、と静まり返った部屋にバスルームから聞こえるあえぎ声が響いた。








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